前回「日本と海外の思考=気質の違い。違いを知り、そして自分たちを知る事の重要性」
という内容を寄稿させていただきました。
今回はその中でも書かせていただいた「自分を知る事」について少し掘り下げてお伝えしたいと思います。
もちろん人種や国=環境によってベースとなる考え方のようなものもありますが、そもそも私たちは一人ひとり違います。ドイツに来て感じたのが日本に比べてその一人ひとり違うという事についての認識が強く、そして個人を尊重する環境であるという事です。大人は子供に対しても意見を聞きますし、自分で考えさせて自己決定をさせる場面が多いです。自主的で能動的な行動からは自ら多くの学びを得る事ができます。こういった環境=外的要因はもちろん大事ですが、内的要因も大事だと思います。内的要因として「自分自身を知る事、認める事」があり、それが自信や自立をはじめ様々な事に繋がり発展していくと私はドイツで感じるようになりました。ドイツでは子供たちが自分を知るための作業が日常の中で行われていると感じますし、これがサッカーにも繋がっていると感じます。少し具体的にお伝えしていきたいと思います。
ドイツの小学校の面談
ドイツの小学校では毎年面談があり"Entwicklungsgespräch=development talk"といいます。面談は日本の小学校でもあると思いますが、内容が日本とドイツでは大きく違います。
日本の小学校の面談は必要に応じて子供も含む時もありますが、話すのは先生と親がメインなのではないでしょうか。ドイツの小学校の面談は違い、子供と先生が話をする機会で、親は少し離れた場所に座って聞いているだけです。ドイツの学校で初めての面談の際、勝手がわからない私は息子の横に座ろうとすると、先生に「お母さんはここではなく、あそこに座ってください」と離れた所に用意された席を指さされたのを覚えています。
日本とドイツ、面談の目的が違うと感じています。
日本の場合は、親が子供の学校での様子や学習面を知るためのものだと感じていて、ドイツの場合は"development"する「子供」に焦点が当てられています。なので、子供が先生と話をしながら自分の強みや足りない部分を自分で理解し、その後自分で自分の目標を決めて発展に繋げていく。その内容や様子をサポート役の親も見て理解するという事です。
では日本の面談で目的となる「学校での子供の様子」についてはドイツではどうなるのでしょう。ドイツでは家庭のコミュニケーションの中で子供の色々な事を親が知るべき=子供を知る事は親の責任という事だと思います。
また学習面においてもドイツでは、テストには親がサインをして返すようになっていますし、宿題については学年のはじめに先生から親が子供の宿題管理をするように言われています。ここでいう宿題管理というのは子供が自分で宿題をするように促すことで、決して宿題で正しい答えを出させる事ではありません。こういった事から学習面についても親は家庭で子供の様子を把握できるはずで、もしそれ以外で不安な事や先生に相談したい事があれば面談後に聞くことも可能ですし、また普段から先生に直接アポイントをとって聞く事ができるようになっています。
ドイツでは週に1時間先生が親と話ができる時間を確保していますし、また緊急の場合はすぐに時間を空けてくれます。ポイントはアクションを起こすのは基本的に先生からではなく親から、という事です。これも日本とは違うのではないでしょうか。(もちろん学校で子供に何か問題があった場合は先生から連絡があります)
この"Entwicklungsgespräch=development talk"がどのようにされているか更に詳しくお伝えします。
子供たちのペースを尊重しながら、主体性を引き出していく
まず面談の前に渡された、科目毎に細かい内容が書かれた評価表に子供たちは学校内で自分の評価をします。先生も同じ評価表に子供の評価をして、それを元に先生は面談の準備をします。自分の評価と先生の評価が同じはずはなく違いがあります。その違いから自分を知る作業を進めていくのです。
息子の時は男の先生だったので明るい楽しい話術で子供たちがリラックスできるようにしていましたし、娘の女の先生の場合は面談の場所をデコレーションしてその場の雰囲気からリラックスできるようにしていました。先生によってやり方は違いますが、共通しているのが子供をリラックスさせて始める事で、話もいきなり学校の内容には入らず子供がリラックスする話題から始めて、子供が言葉を発しやすい環境にしてから少しずつ本題=学校の話に入っていくのです。
そして本題の学校の話題でも、まずは子供の生活面と学習面の良い部分から話を進め、子供に楽しい事や好きな事を聞きながら進めていきます。そういった柔らかいポジティブな雰囲気の中で話をしていく中で、また言葉がでない時も先生はヒントの質問をしながらうまく子供から話を引き出していきます。
その中から自分の今の強みや得意な教科は何で、逆にもっと伸ばせるところや足りないところ、必要な事は何かに気づいていきます。最後に面談で自分を知った結果、自分がこれから成長するための目標を自分で立てる。しっかり自分で話して考えて答えを出して決めていくのです。
面談の最後には、自分で立てた目標を評価表の最後に書いてサインをする。先生も同じように先生が書いた評価表に書いてサインをする。聞いていた親もこれにサインをして面談が終わりになります。
この面談が終わった後、毎回子供が清々しい自信に満ちた顔をしているのが印象的です。先生ときちんと話ができて、自分で考えて目標を立てられた。この一連の作業自体が子供の自信に繋がると毎回感じます。
また小学校が終り中学高校になると、この面談はなくなります。親が先生と話したい場合は、親が先生にコンタクトをとるスタンスは変わらないのですが、子供と先生の面談はなくなり、話がある時は自分で先生と話せる時間にアポイントをとって話をします。
定期的に話す場を設ける受動的なセッティングは小学校で終わりという事です。
またテストのサインについても点がいい時は親のサインは必要なく、悪い時のみサインします。小学校でベースを作り、次のステップとしては自主的に動いていく=自立を促していく事になるのだと感じています。
ライタープロフィール
2015年~ドイツで家族四人で暮らしています。ドイツでの生活・子育てそしてサッカー環境を通して見える日本との違いから、日本の魅力や足りない部分を再認識できると共に、新たな発見もあります。他との違いの認識と分析が客観的思考と多様性の認識につながるように、サッカー環境、文化の違いを書いていきたいと思います。