ドイツに来て感じた事の一つとして、サッカーと学業の両立についての重要性と必要性の認識があります。
まず第一に子供達の将来をしっかり見据えた上で必要な事を考えること。
サッカーでプロを目指していてもプロになれるのはほんのひと握りで、サッカーをやっている子供達のほとんどはサッカー選手以外の道を歩むという現状があり、且つ仮にプロの選手になったとしても選手として現役でプレーする期間は限られていて、むしろ引退後の人生の方が長いということ。
また怪我で突然プレーができなくなるかもしれない可能性があること。
こういった状況を考えると、しっかり人生全体で必要な事を考える事が大事であると感じます。
ドイツではこういった認識を多くの人が持っていると感じます。
また、何よりサッカーをするのは人間だという事。つまり人としての成長が重要で、それが選手としての成長にも繋がりプレーの成長にも繋がるという事、また人間は複合的な要素によって、成長していきます。サッカーだけをやって成長するのではないと考えられているように感じます。
私もこういった考えに賛同します。
「まずは一人の人間であること。大事なのはサッカーだけではない。」
この言葉は学校・クラブ・保護者等、サッカーと繋がりがある大人達のコミュニケーションの中でよく聞く言葉です。
以下でドイツの学校の仕組みを踏まえて、またサッカーとの繋がりも関連付けながら、サッカーと学業についてもう少し詳しくお伝えしていきたいと思います。
1.ドイツの学校の仕組み
ドイツの学校の仕組みは州によってシステムが異なります。また近年様々な考えをベースにドイツの伝統的なシステムとは違う形の学校も設立されてきています。ここではあくまでも私が住んでいる州の伝統的なドイツの学校のシステムについて簡単にお伝えします。
ドイツの基本的な学校の仕組みとして初等教育機関として小学校が4年、それ以降に中等教育機関として中学、若しくは中高一貫校があり、小学校4年を終えるときに中等教育機関をどこで学ぶかを決断しなければなりません。この判断は小学校を終えるときの学校の成績で大体決まり3つのレベルに分かれます。以前記事に書かせていただいたレベル分けの考え方が学校でも表れています。
これは子供のレベルにあった教育をして且つ将来目指すものを設定するという事になります。つまり、ここでの選択が将来の職業にも繋がります。
このように書くと「小学4年生でその判断は厳しい」と感じるかもしれませんが、5年生以降途中で変更も可能ですし、私が感じているのは子供一人一人能力に違いがあり、それにあった方向づけと勉強をするという事なのでよい事なのではと感じています。
またドイツでは勉強を急いでさせることはしませんし、成績が悪ければもう一度同じ学年の勉強をしなければなりません(上に上がれない=日本でいうと留年)。
つまり勉強の内容を理解しないまま次の段階に行くことは良くないと考えられています。
また中等教育の3つのレベルに分かれる時も、あえて一つ下のレベルの学校に行き余裕を持ちながら勉強して、成績がよくなった時に上の学校に変更したり、また逆に上の学校の勉強についていけない、自分の目指すものと違うというような事が起きた場合は下の学校に変えるという事をします。
つまり、しっかりと自分に目を向けて選択していく事が大事になると感じています。ここまでで分かると思いますが、中等教育機関のゴールは「受験に合格して大学入学」ではないという事です。
あくまでも自分の能力にあったもの・なりたいものは何かを考え、それに大学が必要であれば大学を目指す。
大学は中等教育3つのレベルのうち一番上の学校のレベルの子供達だけが基本受験可能であり、皆が目指す事でもないし、その必要もないという事です。
2.学校の学習内容とサッカーの繋がり
ドイツの授業内容に関して、私の印象は大きく3つあります。「物事を理解し、そして思考すること」「自分の意見・考えを持つこと」「表現する=発言すること」です。
特に最後の「表現する=発言すること」については、これに繋がる言語技術を中等教育において国語=ドイツ語の授業で重点的にやっていきますし、また各種授業でディスカッションも多く、徹底的に鍛えられる印象です。
先に述べた3項目はサッカーでも非常に重要なコミュニケーション能力の原点だと私は感じていて、学校でやっていることがサッカーでも活きていると子供達を見ていて感じます。
そして、そういったコミュニケーション能力はサッカーだけで養う事は無理だと私は感じています。
さらに、教育とは学校だけでなく、家庭や社会でもされるものだと感じていますし、様々な場所で人としての土台、生きていくための土台が養われることが、サッカーでもそれ以外の事でも活きてくると感じています。
3.クラブアカデミー等、高いレベルでサッカーをするドイツの子供達の学習環境
ドイツにはドイツサッカー協会に認定された「サッカーエリート学校」が全国に現在38校あります。これらは中等教育機関であり、上記の3レベルに対応しています。
これらの学校は、サッカーのための学校という事ではなく普通の学校の中で、1学年に1クラス「サッカーエリートクラス」が設置されており、州のサッカー協会と各学校の近くにあるクラブアカデミーが提携協力して子供達のサッカーの向上と学業の両立をサポートしています。
このクラスにはクラブアカデミーに所属または一般の地域クラブに所属していて州のサッカー協会のサッカー能力テストに合格、且つその学校レベルに応じた成績が取れている子達が入る事が可能で、入学を希望した子達が在籍しています。
息子から学校での子供達のコミュニケーション等を聞いていても、学校で得られていることは沢山あり、サッカーを頑張る者同士学業も共に頑張る事はとても大切な事だと感じています。
また、学ぼうとする意欲を持っている子は環境と興味が整えば何にでも取り組めるのだと感じています。
ドイツは2000年以降のサッカー育成改革において教育の部分も含めて改革した結果、上記のエリート学校が設置される運びになったと聞いています。
ドイツではこのような教育も含めた改革は最近の話で昔からそうだったわけではありませんが、既に育成の考え方として根付いていますし、ドイツ人の友達が「昔と今のサッカー選手は違う」と言っていたのを聞いて、サッカー協会の取り組みが成果として表れていると感じました。
それぞれの国でそれぞれの形ややり方があっていいと思います。ただそれらを構築するにあたり、サッカーの前にまず人ととして大事な事は何か、また子供達の将来に必要な事は何かにしっかり目を向ける必要があるという事を私達大人がしっかりと考えるべきだと思います。
この記事を書いている時に日常でこんな出来事がありました。息子がクラブのジャージを着て電車に乗っていると、目の前の見知らぬ女性に声を掛けられ、
女性:「キミ、●●でサッカーやってるの?私大ファンなの!今どの年代なの?」
息子:「ありがとうございます。今U14です。」
女性:「学校もしっかり頑張ってる?大事なのはサッカーだけじゃないから。勉強も、両方大事よ!」
息子:「はい!両方頑張っています!」
この会話が日常にある社会は大事だなと改めて感じました。
ライタープロフィール
2015年~ドイツで家族四人で暮らしています。ドイツでの生活・子育てそしてサッカー環境を通して見える日本との違いから、日本の魅力や足りない部分を再認識できると共に、新たな発見もあります。他との違いの認識と分析が客観的思考と多様性の認識につながるように、サッカー環境、文化の違いを書いていきたいと思います。