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FCバルセロナキャンプで学んだフットボールの本質 Part.3 〜バルサコーチのサッカーが上手くなる質問力がすごかった〜

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Part3となる今回はバルサキャンプの3日目で行われた練習や、そこでのコーチの発言、僕が感じたスペインと日本のサッカー観の違いを書いていきたい。

 

Part.2はこちら↓

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バルサキャンプの3日目ではProgresión del juego(ゲームでの前進方法)のトレーニングとなる。

 

今回からはウォーミングアップは省略して始めの練習から書いていく。

 トレーニング開始

始めのメニューは鳥かごのようなボール回しにドリブルでボールを前に運ぶようなエッセンスが入ったもの。

四角いグリットの中にもう一つ小さめのグリットを作る。

ボールを回す選手は大外のグリットの外にポジションを取り、ボールを回す。

 

ボールを回す選手はボールを回しながら、中にある小さいグリットに侵入し、フリーの味方にパスを出したらその選手に1点入るというもの。

簡単にいうと、ボールを回しながら、目の前にスペースがあったらボールを中のグリットまでドリブルで運び、目の前に侵入するスペースがない場合は、相手を引きつけ、どうやったら味方にスペースを与えれるかを考えながらプレーする。

というもの。

当然DFはいつも通りで、ボールを奪ったらフリーの選手にパスを通してから交代する。

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ここでもさすがバルサ。

このトレーニングセッションは1日目(スペースを作ること。そして、そのスペースを使うこと)、2日目(ボールの回し方)のトレーニングで学んだことを活かせなければ、スムーズにいかないものとなっている。

 

こうやって、急にテーマを変えることなく少しずつテーマを足していき、フットーボールに必要な要素を足していく。

どの局面であっても、チームの原理原則に沿ったプレーができるようにしていく。

 

2日間の積み重ねもあってか、ボールはうまく回るようになってきているが、なかなか中のグリットにボールを運ぼうとチャレンジする選手はいない。中のグリットにボールを運ぶことができたとしても、意図的に作り出した状況からの1点ではなく、偶然による得点がちらほら入る感じだ。

 

ボールを回すことだけで頭が一杯になってしまっていて、中のグリットの近くでボールを受けようとしてしまう選手もいる。

 

だが、ここですぐに答えを与えないのだ。

あえて、子供達に好きなようにプレーさせる。

そして、このうまくいかない状況を経験させる時間を一定時間とるのだ。

こうすることで、コーチの言葉、改善点の指摘がスッと入っていき、コーチの言葉の説得力や信頼が高まる。

 

数分間そうやってプレーさせた後で一言

 

バルサコーチ

「このゲームってどうやったら1点入るんだっけ?」

 

子供達

「真ん中の四角く囲ってあるところまでドリブルしたら1点!」

 

バルサコーチ

「そうだよね!じゃあ今、何点入ってるかな?」

 

子供達

「あんまり入ってない!」

 

バルサコーチ

「なんでかな?ボール回してる選手の方が全然人数多いのに点入らないのってちょっとおかしくないかな?」

 

子供達

「DFがいるところにパスしちゃったりする時があるから?」

 

バルサコーチ

「なんでそうなると思う?」

 

子供達

「周りが見えてないから?後、みんなプレーするスピードが遅いから?」

 

この時点で僕が個人的にびっくりしたことが1つある。

バルサコーチが子供達に「考えさせる」声の掛け方だったり、質問形式で練習を進めているから、たった数回の練習で考える癖がつき、子供達なりに「今、なぜうまくいっていないのか?」を考え、答えも出せるようになっているのだ。

 

この力はサッカー以外のことにも共通するのではないか?

「うまくいかない原因を自分なりに分析して、それを改善しトライする」

サッカーで学べるこれらの要素は日常生活にも応用が効く。

サッカーは生きる上で大切なことを学ぶことができる最高のスポーツであり、エンターテイメントである。

 

 

少し話がずれたので先ほどの場面に話を戻す。

 

バルサコーチ

「それもそうだね!みんな昨日と一昨日の練習で何をやったかな?」

 

子供達

「スペースを作って、それを使うのと、ボール回しをやった!」

 

バルサコーチ

「じゃあ今、グランドのスペースどうかな?グランドいっぱい使えてるかな? 後ろにまだスペースある選手いるよ?」

「あと、どこにパスを出したらいいかな?」

 

子供達

「フリーの選手!」

 

バルサコーチ

「完璧!そうなんだけど、ちょっと惜しい!フリーなだけでよかった?」

 

子供達

「フリーで遠くにいる選手!」

 

バルサコーチ

「なぜ遠くの選手がいいのかな?」

 

子供達

「遠いと相手がまたボールを取りに来るのに時間がかかるから簡単に中の四角のとこまでドリブルできる!」

 

バルサコーチ

「そうだね!完璧!みんな上手くできてるけど、もう少し相手の状況をよく見ながらプレーしよう。 相手がいなければドリブルで四角の中に入って得点できるよね!相手が近くにいたらどの選手がフリーで一番得点しやすいか見つけてみよう!スペースが全然なかったら早くボールを回して、みんなが広がってスペースを作ってみよう!昨日、一昨日やったことを思い出して!1日やったら終わりじゃないよ!」

 

この声がけで皆のプレーが確実によくなっていくし、学んだことを活かそうとする姿勢が見える。

数人の選手はフットボールのプレーの仕方をつかめてきている。

僕自身、イタリア、スペインでプレーして感じたのだが、日本の選手のボールを扱う技術と俊敏性やスタミナの数値は外国人よりも高い。

しかし、フットボールのプレーの仕方と仕組み、そして力の出し方を知らないのだ。

バルサはサッカーの仕組みを理解することと、どうやってチームの哲学を守りながら目的達成をするのか?というところをまず選手に気づかせるのだ。

 

次のトレーニング

四角のグリットの中でプレーするのは前の練習と変わらない。

今度は、その各辺それぞれにフリーマンを置く。

そして中は5対5。

だがそれだけではなく、グリットの中にマーカーコーン2つで作られたミニゴールがいくつも点在する。

中のプレーヤーはそのマーカーコーンで作られたゴールをドリブルで通過する、もしくは、そのゴールの間にパスを通したら1点入るものになる。

 

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前の練習で、ハッと気づいた選手もいたり、自分なりにどうプレーするのが良いか考えてプレーするようになったからか、中が狭くなり、得点しづらくなったら、外のフリーマンをうまく使い、相手を広がらせながらスペースを作ってプレーできるようになっている。

しかしゴールへの意識が薄い。

 

そこでバルサコーチが一言

「サッカーってどうやったら勝てるスポーツ?どこに向かうの?ボール回してるだけじゃ意味ないよ?」

 

こうやって声をかけるだけで、選手がハッとしてまたプレーが良くなっていくのだ。

 

だがしかし、今度は守っている側に問題が出てくる。

外のフリーマンにボールが渡ると簡単に広げられ、ゴールを奪われてしまう。

 

その状態を少し見ていた後にバルサコーチがまた一言。

「DFは何を守るのかな?」

 

子供達

「相手にマークして、ボールを取る!」

 

バルサコーチ

「本当にそれであってる? じゃあ試合中は何に向かって攻めてるのかな?」

 

子供達

「ゴール?」

 

バルサコーチ

「そうだね!じゃあ守るのはどこかな?」

 

子供達

「ゴール???」

 

バルサコーチ

「そうだよ!ゴールだよ?それで今みんな何を守ってるかな?グランドのどこにゴールある?」

 

ここで再確認したのは、日本の子供達は、マークをつけー!とかボールを取りに行けー!と言われているせいで、自分たちのゴールを守らなければならない。という間隔が非常に薄い。

 

この一言で、ボールとボールに近い選手に集中する現象はなくなる。ゴールを意識しながら取り組めている選手もちらほらいたが、なかなか全選手が相手を守る概念からゴールを守る概念に移行するというのは簡単ではなかった。

 

ゲーム形式のトレーニング

内容はいたってシンプル。

4ゴールのゲームのハーフラインにマーカーコーンおきゾーンを区切る。

グリットの両サイド2メートルとハーフラインの真ん中という感じ。

ハーフラインの両サイドを通過するにはドリブル、ハーフラインの真ん中を通過するにはパスで通過しなければいけない。

中は7対7。

ハーフラインで区切ってあるコートは両チームとも、攻撃するエリアに3人、守備をするエリアに4人配置し、選手はゾーンを行ったり来たりできない。

しかし、ハーフライン両サイドのエリアをドリブル通過の場合はドリブルで通過した選手が、パスならハーフラインの真ん中のエリアを通した選手が攻撃に参加できる。

なので、両エリアとも初めは4対3だが、ドリブルまたはパスで前に進むと4対4になるというもの。

 

この練習が始まると、先ほどゴールに攻めることを言われた選手は、いち早くゴールに行こうと急いでプレーしている。

 

「日本の子供達は言われたことを吸収する力はすごいけど、今度はそれしかできなくなってしまう。スペインだと、なかなかいうこと聞かないけど、自分で気づいてそこからだんだんと良くなっていくよ。この違いすごく面白いね。」

とバルサコーチが言っていた。

 

これは僕の推測だけど、日本だということを聞く子(良い子)は褒められるし生活する上で有利になるのを感知して、褒められよう!と意識が働く環境なのに対して、スペインでは、言うことを聞くよりも、良い行いをしたり、結果や頑張りを褒められる環境なので、結果(ゴール)に強い執着を持つところから始まり、これじゃダメだななどと自分で気づける環境があると思う。

どちらにすべき!という話ではなく、日本の子供の生活環境や、生きる上での大前提を理解してから言葉をかける必要があると思う。

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この状況をまた何も言わずに少し見守るバルサコーチが数分後に口を開いた。

「前に相手がたくさんいたらどうしたら良いかな?目の前に相手いるのにドリブルしかける?パス通せる?」

 

子供達

「できない!」

 

バルサコーチ

「自分の近くに相手が多いってことは、フリーな味方がいるっていうことだよ!前が無理ならどこが空いてるかな?」

 

子供達

「後ろだ!」

 

バルサコーチ

「そうだね! じゃあ前が空いてたらどうするかな?」

 

子供達

「ドリブル?」

 

バルサコーチ

「それだけ?」

 

子供達

「・・・?」

 

バルサコーチ

「じゃあみんなイメージしてみて!自分の前にスペースあるけど、自分より、ゴールに近くて良いポジションの選手がいたらどうするかな?」

 

子供達

「ドリブルじゃなくてパス!」

 

バルサコーチ

「そうだよ!もっとみんな状況を確認しながらどうやったら簡単に攻められるか考えてプレーしようか?」

 

このように、バルサのコーチは子供達から答えを引き出すのが抜群にうまい。

 

この声かけだけで、フットボールのプレーの仕方が変わり、フットボールが上手くなる。そして、選手自ら自主的に、意図的にプレーするようになる。

  

Part4に続く

 

ライタープロフィール

佐藤 靖晟 21歳
高校卒業後イタリアに渡り1シーズン半、今年からスペインに移籍してプレー。

佐藤 靖晟 (@92670731) | Twitter

 

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