Part.2の今回は、バルサキャンプの2日目で行われた練習でのコーチの発言、そこで感じたスペインと日本のサッカー観の違いを書いていきたい。
Part.1はこちら↓
バルサキャンプの2日目はCirculación de la pelota(ボールの回し方)のトレーニングとなる。
ウォーミングアップで頭と身体を準備する
ここでのウォーミングアップはPilla pillaというボールの回し方の要素が入った鬼ごっこのようなゲームをする。
ルールはシンプル。
グリットの中に14人程の選手が入り、鬼が3人。
その3人の鬼がビブスを持って残りの選手をタッチしたら交代なのだが、残りの選手は3つのボールを11人でパスしなければならない。
鬼の目的はボールを奪うことではなく、ボールを持っている選手をタッチして鬼から抜けること。反対にボールを持っている選手は、ボールを持っている選手をサポートし続け、鬼にならないようにすることだ。
ウォーミングアップでは楽しみながら体を温め、その日に練習するテーマを盛り込みんでメニューを作るあたりはさすがだった。
そのトレーニングの中でコーチがいいていたことはいたってシンプル。
「どこにパスを出したらいいかな?」
「どうやったら味方の選手を助けられる?」
この2つだけ。
選手もこの問いかけによって、どうすればうまくいくのかを自身で考えながら、アウトプットする。
11対3のボール回し
次のメニューは鳥かごのようなボール回し。
4角形で囲んだグリットをさらに4つに分けた中での11対3のボール回し。
11人の選手はグリットのサイドラインの外で中の3人にボールを奪われないようにプレーする。
中の3人はボールを奪うのだが、4つのうちボールがあるグリットに2人入って守備をしなければいけないというもの。
これだけ説明して練習に入る。
ここで僕が気づいたポイントはこの段階で練習の意図や、テーマをしっかりと選手に伝えないこと。失敗やミスなどのイレギュラーを起こさせて、そこで初めて、なぜそれを選択したのか?どうすればもっと良くなるのかを選手に考えさせる目的でそうしているということ。
経験させ、気づかせる。これが最善の学びなのだ。
トレーニングが始まる。
選手たちはグランドの中に入ってきてしまい狭い中でプレーしていたが、11対3ということもありボールは回ってしまう。
するとすぐさまバルサコーチは鬼を一人増やし難易度を上げる。
意図していることはできていないが、こなせてしまっている状況では、意図していることをトレーニングするために何も言わずに難易度を上げる。
一人鬼を増やすと子供たちの思惑通りうまくいかない。
そこでバルサコーチが一言。
「ボールを持ってるチームはグランドを広く使うんだっけ?それとも狭く使うんだっけ?
どっちの方がやりやすいかな?昨日練習でやらなかったっけ?みんな自分の後ろ見てみて!ラインの外側でプレーできているかな?」
毎日やるトレーニングの意図は違うが、全て試合を想定した上で大切なことを伝えているから忘れていることは思い出させ、そして、どのトレーニングでも学んだことをアウトプットする必要性を選手に説く。
今度はグランドは広く使えているが、相手が多い方にパスを出してしまったり、状況判断がうまくいかずに、ボールを取られる選手が目につくようになった。
バルサコーチ
「自分がボール持ってる時に相手が近くにいなかったらどうする?」
子供達
「ドリブル!」
バルサコーチ
「このゲームだとドリブルできないよね? じゃあどうするかな?近くのフリーの選手にパスを出して、自分も近寄って何回もパス交換すると相手はどうなるかな?」
子供達
「相手が取りに来る!」
バルサコーチ
「そうだよね! じゃあ相手がボールを取りに来たら逆サイドはどうなる?」
子供達
「ガラ空きだ!」
バルサコーチ
「そうだよね? じゃあ逆サイドがどうやったら開くのか、どうやって相手を誘き寄せるのかもう一回言ってみて!」
子供達
「ボールを持ってる時にフリーだったら近くにパスを出して、相手が来たらフリーで遠くの選手にパスを出す!」
バルサコーチ
「じゃあそれでも相手が来なかったらどうする?」
子供達
「・・・?」
バルサコーチ
「じゃあそれも考えながらプレーしてみて!」
ここでそのバルサコーチが面白いことを言っていた。
「日本の子の理解の速さと、それを実践できるスピードの速さは素晴らしいんだけど、それを言うと今度は、そのことしかできなくなる。」
「ほら見て、今言ったことはできてるけど、今度は一番最初に言ったグランドを広く使うことが出来なくなってる。みんなさっきよりボールが来なくて、ボールが欲しいから、相手の近くでスペースがないのにボールを呼んでいるよね?」
「それから今、それでも来なかったらどうするか聞いて誰も答えなかったでしょ?
これが何を意味しているかわかる? 親が家で何でも子供に対してやってあげてるんだよ。あれしなさい。これしなさい。こうするべきよ。それで子供が失敗する機会やそこから何を学びどうするのか?自ら選択させる機会を奪っているんだ。スペインにももちろんこういう親はいるんだけど、ある年齢になると、一気に手放して自分でどうにかしなさい。って感じの親が多い気がする。そこで失敗しながら学ぶんだよね。」
「日本の子供たちを見て、日本に来てから感じていた違和感が少しわかった気がする。だから日本人は言われたことをしっかりして、みんなと同じであること、予想しやすいことが好まれるんだね。東京に来て、みんながすごく似ててびっくりしたよ。」
「人生とフットボールはすごく似ていて、予想できないことや、突然のアクシデントは付きものなんだ。そこに個人のやり方は違えど問題を乗り越えていく力や対応力が大切で、そこに個人としての価だったり面白さが出るんだけどな。」
人生とフットボールはすごく似てるのだ。
予想できないアクシデントは常につきもので、型にとらわれない柔軟さが大切なのではないか。
次のメニューは、フットサルコート程の大きさのグランドを使い、中で6対6+2
人のフリーマン入れてのゲーム。
ただしルールがある。
グランドを縦に3つのゾーンに分ける。
右、真ん中(ゴールエリアくらいの広さ)、そして左。
キーパーからスタートし、1つだけのゾーンしか使わずにそのままボールがゴールに入ったら1点、2ゾーンボールを動かしゴールに入れたら2点、そして3ゾーン全てをボールを動かして使いゴールに入ったら3点入るというもの。
(ゲーム形式の時のフォーメーションは決まって1-3-2-1の形をとる)
初めのうちは子供達はポジションを守ってプレーした経験がなくその概念も分からない。
ボールに寄ってしまい、ポジションを守れない。
攻撃も守備もボールがあるゾーンにほぼ全選手が集まってプレーしてしまう。
そこでもバルサコーチが子供にかける言葉もいつもと変わらない
「右サイドバックと左サイドバックは自分の後ろにどれくらいスペースあるかな?自分の後ろを見てみようか?今いる場所と、もう少し後ろに下がって広がるのはどっちがプレーしやすいかな?」
「中盤の2人の選手が広がってプレーしたらサイドバックの選手があがるペースあるかな?」
「FWの選手が下がってボールを受けたら、スペースどうなっちゃうかな?自分が下がると相手DFも連れてきちゃうよ?」
「どうやった相手をひきつけられるかな? どこの選手がフリーかな? どこにパス出したら簡単に点入るかな?」
このように特に各自が自分のポジションやその役割を守ることに関しては徹底的に伝え、どうやったらより簡単にゴールが奪えるかを考えるヒントを与える。
しかし、「どこでボールをもらえ!」とか「どこにパスを出せ!」などの選手の色が出る"答え"の部分は選手に委ねるのだ。
しかし、選手のポジションやミスがあっても、プレーが成功したり、得点に繋がったりする時はそれらの声かけをせずに褒めるのだ。
バルサコーチは言う
「自分たちは完璧じゃないし、僕も選手から学びたい。目的はゴールを奪うことだから、それが達成されたり、それに近づけば何も言えないさ。それでミスが出た時にだけ気づいてもらうために話すかな」
クリエイティビティーは原理原則を身につけた上で発揮させるという考えだ。
素晴らしいアイデアは正しい原理原則があって初めて成り立つということ。
そうすることで少しづつではあるが選手のポジション取りに改善が目に見えるようにわかり、ボールもうまく回っていく。
そして、選手が、今日のテーマにとらわれて前日にトレーニングしたテーマを忘れていたら、「昨日は練習で何をやったかなー?、攻撃側は広がるんだっけ?真ん中に集まるんだっけ? 守備は広がっていいのかな?」
それだけで、選手がすぐに前日に培ったものを思い出し、ポジショニングを改善する。
選手が理解していなければ、「スアレスはこんなとこまで下がってプレーしているかな?」とか「ピケはこんなに上がったところでボールをもらうかな?」などと実際に選手がプレーしているポジションとバルサの選手を重ね合わせて選手にわかりやすいように説明するのも素晴らしいと思った。
サッカーの仕組みを知ること。そしてその中で自分たちはどういうプレーをするのか?
それを追求しているのがバルサなのだ。
誰が教えてもそれなりに形になるようにすべてのグランドでメニューを統一し、テーマも順序立てて決まっているのだ。
ここまでたった2日間の練習でかなりの改善点が見られ、別人のようにプレーする選手もいるのだ。
そして最後にゲーム。
バルサコーチがいつも言うのは、
「いいかい、一番大切なのは楽しんでプレーすること。だけど、楽しむこととふざけることは違うよ。今まで練習で学んだことを全て出せるように思いっきりプレーしよう!」
と選手に伝える。
少しづつ選手一人一人がポジションを守るという概念を理解し、ボールサイドに集らない。
たとえボールが来なくてもそこにいる事の重要性を理解している選手も数人出てくる。
その光景を見て、サッカーはボール扱いの技術で決まるものじゃないのだと改めて強く感じた。
Part3に続く・・・
ライタープロフィール
佐藤 靖晟 21歳
高校卒業後イタリアに渡り1シーズン半、今年からスペインに移籍してプレー。