息子がまだ小学生の頃、 一緒にキャッチボールをしていたときのことです。
投球フォームが気になり、
「もっとこうすればうまくいくのになぁ」と、何気なく
「こうしてごらん。まっすぐ飛ぶから」とフォームを教えました。
うんうん、と聞いていた息子。
けれど、その後、数回投げた彼は「違うことする」 とやめてしまいました。
「しまった」
自由にキャッチボールを楽しんでいた息子。
こう投げるといいよ、と言われた瞬間、彼にとって
「こう投げないといけない」になってしまったんだと思いました。
「しなくてはならない」ことは、彼にとってもう楽しいことではなかったのでしょう。
時として、「大人の親切心」「教えたいという思い」が、 何より大事にされるべき子どもの好奇心を失わせてしまうことがあるということを思い知った出来事でした。
サッカーのトレーニングでも、同じような光景を目にすることがあります。
子どもたちは、ゲームが一番好きです。
それは、 そこに大人の介入が少ないからだと聞いたことがあります。
けれど、ゲームの途中、コーチにたびたびプレーを止められ、 細かい指示が出され、 長いコーチングに、子どもたちが表情を曇らせているチーム、ありませんか？
どんどん笑顔が消えていくことに、コーチは気がつきません。
以前ご紹介した為末大さんの著書、「遊ぶが勝ち」 にはこう書いていました。
「したい」と「しなくては」。その間にある、とんでもない差。 「自発的でなければ楽しくない」ということは、「 義務化されたとたんに楽しさは消える」ということでもある
そして、こうとも。
遊びながら学び、学びながら遊ぶ。 僕自身のプロセスを振り返ると、面白いからやっていることが、 自然と学びにつながっていた。ハードル競技も読書も「遊びのなかに始まって」いたのだ
子どもたちが想像力をめいっぱい働かせてプレーをしている「 大人の介入がない時間」に子どもたちが得るものは、 私たちが思っているよりずっと多いのかもしれません。
もちろん、成長途中の子どもたち、判断が間違っていることも、うまくいかないことも、たくさんあります。
ある日、息子の練習風景を見ていると、いつもならパスを出すシーンでも出さない、ミスも目立つ、 そんな日がありました。
練習が終わって、彼は目を輝かせて言います。
「今日は、ゲームのとき、色んなことを試してみたんだ。プレミアリーグの○○のプレーを真似してみたよ。うまくいかなかったけど。」
新しいことにチャレンジし、上手くいかない体験をしたのに、とても楽しそうです。いいトレーニングだったんだな、と嬉しくなります。
彼がそうやってチャレンジできるのは、息子のチームのコーチが「ミスは宝物」「サッカーはミスするスポーツなんだよ」 と子どもたちに声をかけてくれるからなんだと思います。
もし、チームのコーチが、全てを指示してしまうコーチだったら。ミスを責める指導者だったら。大きな声で恫喝する指導者だったら。
きっと、子どもたちは、怒られないプレー、大人の望むプレーを、選ぶんだろうな。
「うまくいかない体験」 は、宝物。
「うまくいかない体験」は、子どもたちの成長に必要不可欠なもの。
子どもたちが安心して失敗できる環境をつくること、義務化して楽しさを奪わない、ということを、 忘れないでいたいと思います。
ライタープロフィール
サッカー少年の子どもを持つ母
子どもたちをもっと笑顔にするためには大人が変わらないといけない…本には大人が変わるヒントがたくさん散りばめられています。大人の心を育む本をご紹介していきます。
