Jリーグ第32節、浦和VS川崎F。
0-1で川崎がリードする展開の中、後半33分。
川崎は途中出場した小林悠が貴重な追加点を決め、0-2とする。
このスコアのまま試合は進み、川崎が勝利した。
勝敗を決定付けた小林のゴールには、日本では悪とされやすい
「攻撃の型」
がいかにメリットがあるかを見ることができる。
今回は、このゴールを分析することでそのメリットを解説していこう。
ゴールシーン
まずは映像からご覧いただきたい。
簡単に説明すれば、アーリークロスをニアで合わせたゴールである。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ (@J_League) November 5, 2019
🏆 明治安田生命J1リーグ 第32節
🆚 浦和vs川崎F
🔢 0-2
⌚️ 78分
⚽️ 小林 悠(川崎F)#Jリーグ#浦和対川崎F
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ここで着目したいのは、
①なぜ小林は先にボールに触れたのか
②なぜ守田はピンポイントでクロスを蹴れたのか
という点だ。
そしてこれらを解決するのが「型」である。
「創造性」という言葉の難しさ
よくサッカー関係者が口にする言葉に
「創造性」
というものがある。
しかしこの言葉、指導者にとっては便利、選手にとっては厄介なものであることは意外と知られていない。
意味合いとしては読んで字の如く、創造する力を指すことが多い。
思いつかないようなプレーをする、と言えばいいだろうか。
代表的な選手にロナウジーニョが挙げられることが多い。
だが、よく考えていただきたい。
サッカー史上、過去に行われなかったプレーを発明する力は必要なのか?
そしてそれは簡単に身につくものなのか?
確かにチームがうまくいかないとき、指導者が選手に対して
「創造性が足りない!」
と言えば、自発的に考えることを促しているように見えるだろう。
しかし実際は、公式も教えずに数学の問題にトライさせているようなものだ。ノーヒントで解決する力は、一握りの才能の持ち主にしか宿らない。
そんな神頼みの能力を、必須としていいのか。
私は必要ないと思っている。
それよりも、多くの「型」を身に着け、適切なものを選ぶ判断力が戦うために必要になると、選手生活で痛感した。
選択肢を複数持ち、適切なプレーを選択することの大切さは、
前回の仲川の記事にて解説したとおりだ。
そして、このゴールから型の優位性を認識することで、指導者・選手共に上達の手助けになればと思う。
「型」は判断が速くなる
では先ほどあげた二つの着目点を見ていこう。
どちらも型の優位性を生かした結果だ。
①なぜ小林は先にボールに触れたのか
守田がクロスを蹴るまで、小林は一貫してファー狙いの動きをしている。
一般的な選手であれば、ここでニアかファーか駆け引きをするのだが小林はあえてしなかった。
なぜか。
自分の特徴である一瞬の動き出しの速さを自覚しており、それを最大限に生かすためである。
駆け引きをするということは、どちらにでも動ける体勢や素振りを見せなくてはならない。細かく左右に動いたり、走るフリをしてみたり。
絶対にニアで合わせる、と決めている選手。
どっちに行くかその場で考え、体勢をコロコロ変える選手。
どちらが速いかは明確だろう。
②なぜ守田はピンポイントでクロスを蹴れたのか
そうなると問題になるのが、なぜ全く素振りを見せなかったニアへの動き出しに対し、守田は完璧なクロスを蹴ることが出来たのか、である。
映像を見ると、小林がニアへ走り出すのは守田が目線をボールに向けた瞬間だ。
つまり守田は、ニアへの動き出しを見ることなく判断している。
考えられる可能性は一つ。
そこに小林が動くことを「知っていた」のだ。
これが、型の一番の強みである。
動き出しを見ずとも、積み重ねた練習により得た共通のイメージに導かれた結果、ボールは小林の頭に寸分の狂いなく届けられた。
判断に迷うことなく、キックに集中することで
・キックの精度
・判断のスピード
この両者が浦和の守備陣を上回るクオリティに達したのである。
少しでもキックがずれればゴールには繋がらないし、僅かに判断が遅れただけでもDFに対応されてしまうだろう。
考えること、考えないこと
サッカーは頭脳をフル回転させるスポーツだ。
だからこそ、ゴール前のようなコンマ一秒を争う状況では
「考えないことの速さ」
が大いなるメリットとして働くことがある。
前回の仲川の判断が個人としての型ならば、
今回の小林のゴールは複数人が共有した型であるといえる。
ここ数年、サッカーはより高速化した。
その中で、チーム全体が型を共有し高速化に対応するケースも多い。
ビルドアップで、守備で、クロスで。
そんなプレーの一端から型を見つけ、それを習得する過程を想像する。
それはファンにとって新たな楽しみになり、選手や指導者にとっては有益な教材となるのではないだろうか。
ライター