J1リーグ第22節、柏レイソル対浦和レッズの1シーンがJリーグの公式Twitterに紹介されていた。
浦和の汰木康也が見せたそのプレーは、日本ではあまり見ることが少ない技術もそうだが、それよりも判断力で相手に勝った、と感じさせるプレーだった。
技術の追求にはとても熱心、というのが日本人の特長だと言われる。だがサッカーには時として、精密な技術よりも大局的な判断が重要となる場面が訪れる。
今回は汰木康也のプレーをサンプルに、そんな考え方をお伝えしたい。
特に現役の選手にはプレーに直接役立つ可能性もある。
またサポーターの方も、プレーの精度や技術だけでなく判断についても是非知っていただきたいと思う。
実際のプレー映像
映像はこちらである。
#浦和レッズ の#汰木康也 選手が見せた
— Jリーグ (@J_League) 2020年10月15日
パーフェクトなトラップ✨
ファーストタッチで相手を抜き去ります‼️@REDSOFFICIAL @koyayuruki25 #Jリーグ pic.twitter.com/5fUfsnF6ae
では、なぜ筆者は技術よりも判断が素晴らしいと感じたのか説明していきたい。
ボールの移動中に起きた変化
汰木へサイドチェンジのボールが辿り着くまでに、その近辺には変化が起きていた。
これが、蹴った直後の状況。
そしてこれが、トラップ直前。
柏のDFが、トラップの瞬間を狙って距離を詰めてきたのだ。
このトラップを狙うというのは守備のセオリーの一つである。トラップが足から離れれば奪えるし、奪えないトラップをしたということはそれ以上前に進めないキープや後ろ向きのトラップを選択すると言うことになる。
特に汰木のようなドリブラーを相手にする場合は、スピードに乗らせない、仕掛けさせないという先手の対処が重要となる。自由を与えないためのDFの対処だったのだ。
この守備の対応、状況の変化に対して汰木が出した解答は
「大きいトラップでスピード勝負なら勝てる」
というものだ。
なぜ汰木は走り勝てたのか
大前提として、汰木の一瞬のキレは長所であり武器だ。それを自分で正しく認識している点が選手として素晴らしい。
そしてこのトラップからスピード勝負を仕掛ける場面は、絶対的に攻撃側のほうがいいスタートが切れる。自分は縦で勝負と決めているが、DFは見てから反応しなくてはいけない。この差があれば汰木は勝てると判断したのだろう。
ただその判断を最初からしていたとは思えない。ボールが飛んでくる間に、DFが距離を詰めてきたのを見て選択しているはずだ。数十メートル先から飛んでくるボールを見つつ、目の前のDFの動きもチェックする。このボールから目を離せる能力はとても大切だ。
このトラップに超絶技巧は必要か
さて、肝心のトラップについてである。
実はこのトラップ、するだけであればそこまで難しいものではない。おそらくだが、一般的な高校サッカー部であれば似たようなボールの動かし方自体は出来るだろう。
このトラップにおいて、技術的に汰木が優れていた点は二つ。
一つ目はトラップと同時に加速できる身体操作である。細かく動きを見れば、トラップした瞬間に足を踏みかえてスプリントを始めている。これ自体も身体能力の高い選手ならば再現することが出来るだろう。
二つ目は上記したように、判断が適切であったこと。
このトラップに必要なのは、cm単位の正確性ではない。ボールを動かす方向が正しければ、強さに関してはアバウトでいい。広大なスペースがある以上、精密性はそこまで必要とされないのだ。
汰木はボールが飛んでくる間にボールを凝視するのではなく周囲の状況を把握し、さらに言えばDFの狙いも察知した。と同時に自分の武器を認識しているため、スペースで勝負という選択をし見事成功させた。
サッカーにはもちろん優れた技術が必要な場面が多々ある。針の穴を通すようなパスも、DFに囲まれながら奪われないドリブルもそうだ。
だがサッカーには、判断が正しければ技術はそこまで必要とされない場面もまた存在する。サッカーは身体技術、そして頭脳の戦いなのだ。
それを汰木は素晴らしい形で見せてくれた。現役の選手は是非手本にしてほしい。
筆者ブログの紹介
筆者:山田有宇太 (@Grappler_yamayu) | Twitter
筆者はこのように、プレーを言語化する取り組みを現役時代から継続して行ってきた。
その一つの集大成として、中高生に向けたブログ
「読むサッカーの上達サイト~中学生、高校生へ向けて~」
というサイトを運営している。
中高生に限らず、
・もっとサッカーを楽しみたい
・サッカーを深く知りたい
・選手がどんなことを考えているのか知りたい
・指導の参考にしたい
といった様々な方のご参考にもなればと思う。
もし興味があれば、こちらも覗いていただければ幸いだ。