スペインの名門、ビジャレアルで育成に携わる佐伯夕利子さんの著書「教えないスキル」を読んでいるのですが、この本は日本の育成指導に携わる指導者の方のみならず、親御さんにも猛烈におすすめしたい一冊です。
これまでたくさんのサッカー育成本を読んできましたが、その中でも屈指の内容です。
世界トップレベルの育成指導をするビジャレアル。そこで行われた育成年代の指導者へのアプローチの話を少しだけご紹介させていただければと思います。
各コーチにカメラとピンマイクをつけて、心理学者が指導者が発する言葉をレビューし、ふりかえり、内省を重ねることで劇的な変化があったというお話です。
自分の指導を振り返ることは大切なこと
私自身の指導を振り返ってみましょう。試合中、わたし自身が思っていたのと違うアクションをとった選手に対し、ほぼ何も考えず声がけをしていました。
「なんで今の右出すの?左じゃないの?」
「見えなかったの?左がフリーじゃない」
そこには意図もなければ意識もありません。なぜ自分がその言葉をかけているのか。なぜ左でなければいけないのか。その選手が判断した右へのパスが、どうしてダメだったのか、わたしのメッセージに含まれる意図は皆無でした。
そんなことに気づかないまま、長年指導してきたことに気づかされるたびに、顔から火が出るような思いでした。
本当に恥ずかしかったけれど、そのたびに「いや、今この瞬間は痛みを伴うけれど、気づいてよかったのだ」と自分に言い聞かせました。
自分たちの指導をふりかえることって意外と少ないと思います。佐伯さんが言うように、痛みが伴うことでありますが、指導の質を高める上で、とても大切なことなのだと思います。誤ったコーチングに気がつくことができたり、よりよいコーチングをしていくためにとても有効だと記されています。
メンタルコーチの役割
各コーチにカメラとピンマイクをつけて、データにし、それをメンタルコーチとマンツーマンでレビュー……、というエピソードの一部ご紹介させてください。
メンタルコーチは、私が発した言葉の「仕分け」をしてくれたのです。
①選手を肯定したり鼓舞するようなポジティブなメッセージがどのくらいあるか。
②ダメ出しを含めたネガティブなメッセージはどうか。
③同じ選手に何回声をかけたか。
最後の③は、ポジティブ、ネガティブ含め、A君には13回声をかけられたけれど、B君にはたったの2回、なおかつその13回と2回の内訳まで細かく記録されていました。
このデータと映像を元にメンタルコーチとミーティングをします。
ネガティブなメッセージとポジティブなメッセージの内容(言葉)は何を意味するのか。そのワードは差し替え可能な、違うのも、異なる言い回しがあるのではないか、何を目的として、A君にその言葉をかけたのか。
これらをひとつずつ、一対一で質問してもらいながら、冷静に見直していくような作業を続けました。
彼らに尋ねられることで「なんでこう言ったんだろう?」「他の言葉はないだろうか?」と考え始めます。そうすると、その都度「言葉」や「行動」の意図を考えるようになります。それまで注目したことのなかった自分の言動を、振り返る習慣が生まれたのです。
その結果、発する言葉を自分で選ぶようになったり、選択肢を増やすようになったり、自然に言葉の仕分けを自分でするようになりました。
これは、日本の育成年代のスポーツに取り入れることができたら、とてもよいのではないかと思いました。
指導者の成長に繋がり、誤った指導は減っていくと思います。
佐伯さんは日本スポーツの課題も変えていかないといけないという強い想いも綴られています。
日本のスポーツ指導の現場では絶対君主的な制度が蔓延しているうえに、企業のなかで上司に当たる人たちも部下に対し「ちゃんとやれ」「なんでできないんだ」と圧迫して指導する。それがすでにパワーハラスメントの域に突入していることに本人たちだけ気づいていない…
ーー中略ーー
少しづつ共感してくれる人、同意してくれる人を増やしていく作業しかない。地道に伝えていくしかない…
指導者の横暴な態度、暴言、暴力が問題になり、苦しむ人を減らすことはできると思います。問題なのは一部の指導者だけではありません。チームを選ぶ親も、何が良い指導で何が悪い指導なのかを知ることも大切です。
言葉使いは悪いけど、選手を育てる人いますよね。そういう指導者の方もたくさんみてきました。でも、許容してOKなレベルを超えることがあってはダメだと思います。そんな魅力ある指導者を守るためにも、間違っていることを間違っていると伝えていかないと、この問題はきっと変わらない。日本という島国において、グローバルスポーツであるサッカーの本質を、佐伯さんのような世界を知る人から学び、知る、そして自らをふりかえるということはとても大切なことだと思います。
佐伯さんの著書は日本スポーツの育成に携わるすべての人におすすめです。
— Kei Imai (@Keivivito) 2021年1月30日
・教えないスキルの磨き方
・パフォーマンスを生む言葉の選び方
・日本スポーツの普通が実は異常?
・日本のポテンシャルを知る
日本のサッカー文化を育むヒントだらけです。 pic.twitter.com/pkEOYCamNN
サッカーと育成を大きなテーマとして扱う当ブログは、この本は「育成の本質」以来、強烈にお勧めしたい一冊です。
2020年に当ブログ一押しの本がこちら⬇️
サッカーの本質を追求する旅はつづく…