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日本の子どもたちがサッカーが上手くなるために大切なこと|アルビレックス新潟U-15 佐枝 篤監督

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アルビレックス新潟U-15の佐枝 篤監督にお話を伺いました。

佐枝さんとは、FC市川ガナーズ(旧アーセナル サッカースクール市川)時代にはじめてお会いしてから仲良くさせていただいているのですが、サッカー観、育成哲学を聞くたびに、これはいつかインタビューしなければと思っていました。

高校サッカー部のコーチから、スペインの育成年代での指導を経て、日本の育成年代で指導をするという面白いキャリアを歩む佐枝さんのお話は、日本のサッカー文化を育むためのヒントがたくさん散りばめられていました。

 

佐枝 篤 (さえだ あつし)アルビレックス新潟U15監督

指導歴
2006-2010年 熱田高校サッカー部コーチ
2011年 一宮興道高校サッカー部コーチ
2012年 佐織工業高校サッカー部監督
2014年 U.E.SANT ILDEFONS Juvenil C (U-18)コーチ
2014-2015年 E.F.GAVA Alevin A(U-11)第二監督
2015-2016年 C.EJUPITER Infantil B(U-13)第一監督
2016年 C.EJUPITER Infantil A(U-13)第一監督
2017年 アーセナルサッカースクール市川 U13監督
2019年3月-8月 アルビレックス新潟メソッドコーチ兼通訳
2019年8月 アルビレックス新潟U-12コーチ兼メソッドコーチ
2020年1月-3月 アルビレックス新潟U-18コーチ

 

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【目次】

 

育成年代を指導する時に特に大切にしていること

ーー育成年代の子どもたちを指導する時に大切にしていることはなんですか?

 

なぜ、この子たちはサッカーをしているのか?ということを考えます。つまりボールを蹴る喜びがあるからサッカーをしているはずなんです。その本質的な欲求を持っていることを忘れてはいけないと思っています。

学年が下がれば下がるほど、ボールありきのサッカーをすることを意識しています。良いサッカーをしたいというのは副次的な要素なんです。まずはボールを蹴る喜びを味わいながら少しづつ良いサッカーとはなにか、相手に勝つために必要なことはなにかというのを伝えていくことを大切にしています。

 

ーー佐枝さんがこのような考え方になるまでを聞かせてほしいのですが、簡単にこれまでのキャリアを教えてください。

 

指導者になった背景、原体験

高校で体育教師を3年間やりながらサッカーを教えていたんです。

その時にプロのコーチになりたいと思って、スペインに行くことになったのがすべてのはじまりですね。

 

ーースペインに行く前はどんな指導をしてたんですか?

 

周囲から求められていることを意識していましたね。理論があまりなかったですし、体力を作るために結構走らせてたりもしましたね。

 

ーーなぜスペインだったんですか?

 

教員時代に海外に目を向けているサッカー指導者たちのコミュニティに入ったんです。そこで刺激を受けたことがきっかけですね。

アルビレックス新潟バルセロナで1年間プレーしながらスペインの町クラブで4シーズン弱指導に携わりました。

ユースの見習い、U12(アレビン)第二監督、U14(インファンティル)の第一監督をやらせてもらいました。

サッカーを体系的に学ぶことができたのはこの時ですね。サッカーの原理原則とはなんなのか、どのように選手はサッカーを学んでいくのか、指導者としての土台ができたと思います。

 

伝える力、自分を表現する力は指導者にまず求められる

ーーその後、帰国してアーセナル市川(現 FC市川ガナーズ)で指導することになったんですね。

 

そうです。一番影響を受けたのは、テクニカルディレクターとして来てくれた元スペイン代表(前日本代表GKコーチ)のリカルド・ロペスですね。

彼が伝えることはシンプルで明確なんですが、やはりカリスマ性と人間性が特別だったなと思います。人の心を掴む力がありました。

言葉が通じないのに、心が通じるというか…

 

ーーオーラというか、雰囲気ありますよね。

 

伝える時に、頭で考えたことだけを伝えないというか、心にグッとくる伝え方ができるんですよね。それこそ伝える力、表現力なのかもしれないのですが、言葉以上にそういう力があるんです。

 

彼から学んだのは、伝える時に大事な言葉以外の部分、雰囲気、シチュエーションもですが、どんな感情で、どんな表情で、どんなリズムで話すか、そういうものがいかに大事かということですね。

 

あと、日本に帰って来て感じるのは、感情を吐き出す人は多いけれど、感情を表現できる人は少ないということです。育成年代の試合でよく見る指導者の子どもたちへの暴言とかも感情をただぶつけているだけで、子どもたちが主体的に動けるようになるためのコーチングではなく、思い通りに動かすための感情的な命令なんです。大事なのは指導者が伝えたいことをしっかりと伝えるための表現力なんです。リカルド・ロペスを通じてそれは確信に変わりましたね。

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左が佐枝氏、中央リカルドロペス氏  FC市川ガナーズ(旧アーセナル サッカースクール市川)Gにて

自分をどうつくるか、アップデートしていくか

ーー佐枝さんはどんな指導者を目指してますか?

 

オリジナリティがないと指導者としての価値が高まっていかないと思ってます。

指導者って理論をインプットして、アウトプットすることの連続なんですが、それだけではなく、プラスアルファが求められると思っています。

そもそも自分をどう作っていくか、アップデートしていくかを考えないといけない。時代が変われば人も変わります。フットボールのトレンドも変わります。でも本質を捉えておけば芯はブレないんです。だからこそ学び続ける必要があると思います。自分の場合は好奇心で学んでいるだけなんですけどね(笑) 


ピッチ内の文化をつくること

サッカーを通じて良い人間を育てたいって指導者はみんな言うじゃないですか、でもサッカーは人を騙すゲームなので、騙せないとダメなんですよ。良い人間は人を騙しちゃいけないじゃないですか。その矛盾を指導者はクリアにできないとダメなんです。ピッチ内では騙していいけど、ピッチ外ではダメっていう。つまりピッチ内の文化をつくるということがとても大事なんです。チームでいかに相手を欺いて勝利するか、そのプロセスをみんなでつくっていく、それはピッチ内の文化をつくるということそのものなんです。ピッチ内で話すことと、ピッチ外で話す内容は全く違うことなんです。

 

子どもたち一人ひとりの特徴、性質を最大化すること

ーースペインでスペインの子どもたちを指導して、日本で日本の子どもたちを指導したご経験がありますが、どんな違いがあると感じますか?

 

日本人の特性として、周囲に迎合しやすかったり、意思表示することに抵抗があるというのがあります。それ故にピッチでも自己表現が弱いんです。

でも、大人が失敗をポジティブに伝えることだったり、良いチャレンジを当たり前のように称賛してあげることで、選手たちは自分なりの表現ができるようになります。

ピッチ内では常に双方向のコミュニケーションをとるようにしています。一方通行にならないように、一人ひとりが主体的に取り組めることを前提にトレーニングを設計しています。

この環境に慣れてくると、トレーニング中の僕のコーチングにも言い返してくるようになります。つまり選手が自分のプレーに責任が持てるようになるということです。

日本人は枠にハマることに安心する国民性がありますが、スペイン人は枠にはめてちょうどよかったりします。また、スペイン人はコンセプトを大事にするけれど、日本は概念に囚われやすかったりします。こういった国民性の違いを踏まえて指導しないといけません。

 

全ての選手を幸せにすることはできない

これまでの指導者人生で、自分と合わなくてチームを去ってしまった子が3人います。

自分の力不足もあったと思います。でも、彼らにとってより最適なコーチがいるクラブが他にあったのかもしれないとも思います。どんなに尽くしても辞めてしまっていたかもしれない。いずれにせよチームを去ってしまった3人を忘れることはないと思います。

一方で、こんなエピソードもあります。

なかなか試合に出してあげることができなかった子がいたんです。でも、その子の親が「佐枝さんがコーチになってからすごく上手くなりました。もう一度教えて欲しかった。」って言ってくれたんです。試合であまり使ってあげられなかったのにもかかわらずです。とても嬉しいことでした。

何が言いたいかというと、全員を同じように満足させ、幸せにすることはできないかもしれないけれど、一人ひとりと向き合って、サッカーが上手くなるためのトレーニングを作っていくことを妥協せずに続けていくことが我々指導者は大事なんだと思います。

 

厳しいトレーニングではなく、主体性を持てないと置いてかれるトレーニング

 

ーートレーニングで大切にしていることはなんですか?

 

厳しいトレーニングではなく、要求度の高いトレーニングです。 

僕が常日頃意識しているのは、頭を働かせないとできないトレーニングです。集中しないとついていけない、考えながらプレーしないとついていけないトレーニングです。

トレーニングについていくためには、主体性を持って入っていかないと無理だと思わせることが理想ですね。

「やれよ!」とか「集中しろよ!」とか言われるから集中するんじゃなくて、集中しなきゃ置いていかれるということです。そういう要求度は高い設計にしています。

トレーニング後は、みんな頭も体もクタクタになります。

選手がサッカーを学ぶのは三つの順番があります。

一番は、試合です。

二番目は、トレーニングです。

その次に、指導者の問いかけ、導きです。

所詮、僕ら指導者は三番目なんです。

だからこそ、試合とトレーニングをいかにオーガナイズするかということに注力する必要があるんです。

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上手くなったら試合に出れるんじゃなくて、試合に出るから上手くなる

日本だと、「上手くなったら試合に出れるから頑張って練習しよう」っていうのが当たり前になっているんですが、この当たり前を変えたいんです。

サッカーが上手くなったら試合に出れるんじゃなくて、試合に出るから上手くなるんです。試合に出れずに全然サッカーが上手くならない子が多いのは、この風潮のせいだと思います。

 

サッカーが上手くなるためには、自分の才能を信じること

アルビレックスの子たちによく言うのは、もっと自分の才能を信じろということです。

「俺なんかまだまだです」っていう子が多いんです。

向上心があるということだし、悪いことじゃないです。でも、あまりにも自己否定の感じが強いんです。

自分に矢印を向けすぎてしまって閉じこもってしまう子が多い。大事なのはバランスなんです。自分に矢印を向けつつ、消化して外に出していかないといけないんです。サッカーは自分を表現することですから。

みんなポテンシャルは高いので、もっともっと自己肯定感を高められると伸びる子は出てくると思います。

サッカーが上手くなるためには、自分の才能を信じることがとても大事なんです。日本人はこの信じる力が高まればもっと才能が開花する子が増えると思います。

 

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  • 作者:幸野健一
  • 出版社:徳間書店
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