日本のサッカー文化を育んできた「少年サッカー」。
多くの子どもたちにサッカーとの接点をつくり、たくさんのサッカー選手を育んできた土壌。
しかしながら、メディアに取り上げられるのは見栄えの良いほんの一部のチームや指導者、現場の生々しいリアルがここまで赤裸々に書かれた本は読んだことがありませんでした。
この本には、少年サッカーに携わるチームの、大人たちのリアルな声が記されています。
サッカークラブの収益源は月謝と呼ばれるものがメインになります。会員数をいかに増やし、満足してもらえるサービスを提供するかが重要になります。子どもを成長させてくれるチームに預けたい親は、コストパフォーマンスのいいチームを探し求めます。少年サッカーチームもそんな市場原理にさらされています。月謝の安いボランティア運営のチーム。月謝は高いけど指導の質は高いチーム。
しかしながら、収益源が限られている少年サッカークラブの運営は困難を極めます。活動場所の確保、人件費など、かかるコストも多く、月謝のみではコーチたちの質の高い生活を担保するのは難しい現実があります。
ボランティアコーチも、本業の仕事があり、家族との時間と折り合いをつけて現場にいくわけです。長引く不況の中、自分の生活だけで手一杯な時代において、少年サッカーチームの運営は簡単ではないのです。
少年サッカーチームを運営するのは困難
本書に記されたある指導者の言葉をご紹介します。
若い指導者の中には、サッカーだけで飯を食いたいという者もいて、現実が分かっていない。二十年近いコーチ業の中で多くの仲間や先輩を見てきて、いつまでも安い給料でアルバイトをしながら生活している人や、突然コーチをやめてサッカーとは全く関係のない仕事を一から始める人もいた。地域との関わりや、お金にならないけどやらなければいけないことと、確実な収入源としてやらなければいけないこと、そのバランスをしっかり考えていきたい。今後社員コーチが新たに加わったときに、基本的に自分とこれから一緒にやろうとする人は、サッカーメインでそれしかやらないという人は一緒にやれないと思う。
子どもにサッカーを指導して飯を食うためには、サッカーだけじゃダメだということです。私自身、サッカーの指導をメインの仕事にしていないのは、経済的な理由もあります。少年サッカーの指導はとてもやりがいがあるけれど、家族を養っていくためには収益面で難しいからです。子どもに指導する大人に経済的、精神的余裕がなくなれば、いい指導などできないと思うからです。余裕のない大人たちがサッカーを壊してしまう光景をたくさん見てきました。だからこそサッカーとの関わり方は大事にしないといけないと思います。
そんな少年サッカーチームを運営する全国の方々の生の声が、本書には記されています。
少年サッカーを支えた大人たちの功績
日本全国に俺みたいなのがいて、サッカー好きのおじさんがいて、その人たちが試行錯誤してそれが日本のサッカーを支えてきたと少しは自負している。なんだか人生の中心にサッカーがあったよなあ。なんで、『サッカーマガジン』を創刊号から読み始めたのか。なんでだろうね。でも、サッカーが一番楽しい。サッカーっていいよね、というしか言いようがないよね。
本書に書かれた、あるチームの代表の方のインタビューを引用させていただきました。
日本のサッカーを支えてきたのは、こんな情熱に溢れた指導者たちであると思います。まさに自分の人生をサッカーに捧げた男たち、人生をかけた大人たちが文化を作ってきたのだろうと思うのです。
私の身近にもそんな情熱的で魅力あふれる指導者がいて、いつも学ばせてもらっています。
本書は、まさに少年サッカーのリアルが取材された素晴らしい本です。
育成年代に携わる、携わりたい人は必読の内容です。
サッカーを持続可能なものにする為に、私たちができることはなんだろうかと改めて考えさせられました。サッカーの価値を高め、これまで見えてこなかったサッカーの価値を言語化すること、サッカーと社会を繋げること、地域にサッカーがなくてはならないことにする為に、みなさんと一緒に考えて行けたらいいなと思います。