「岡田メソッド」を取り入れた指導をしている息子の所属するチーム。
以前ご紹介したように、岡田メソッドは16歳までにサッカーの原理原則を落とし込み、その後自由にプレーするというもの。
最近読んだ本の中で、形は違えど、独自のプレーモデルを教え、共通認識をもち育成しているチームがありました。
本書によると、著者であり、プレミアリーグU-11の実行委員長の幸野健一さんが代表を務めるチーム「市川ガナーズ」でも、攻撃や守備における原理原則を決めています。
プレーモデルを教えることは、選手を型にはめ、自由を奪うことではありません。
幸野さんは、チーム内の共通認識があるからこそ、認知、判断、実行のスピードがあがり、より多くの選択肢が持てるようになると言います。
岡田メソッドの「デカラ」「シャンク」などのような、独自の共通言語を持ち、認識のズレをなくすことで、指導者や選手間の理解をスムーズにします。
ところで、息子が所属するチームでは、公式戦で毎試合、交代枠8人をすべて使いきります。 得失点差を考えれば、高い技術を持つ選手を使用し、大量得点を狙った方がいいかもしれませんが、コーチは可能な限り多くの選手に出場の機会を与えようとしてくれます。
そのため、「今日も出れないんだろうな」そんな憂鬱な気持ちで試合に臨む選手や保護者はいません。だれもが試合を待ち望み、「今日は試合に出るぞ」「今日は試合で頑張ってくれるかな」と、期待を胸に、試合の日を迎えます。
多くの選手を起用しますが、コーチは決して勝ちを諦めて、多くの選手を起用するわけではありません。 勝ちにはとことんこだわります。
スターティングメンバ―も毎回かえます。不思議なことに、個々の技術には差があるのにもかかわらず、選手の組み合わせが変わっても、ボールが回りゴールを奪うことができます。
これが、プレーモデルを学んだことによる効果なのでしょうか。
もちろん、試合結果だけみると誰を出したときも同じ、というわけにはいきませんが、メンバーが変わったからといって、彼らのサッカーが全くの別物になることはありません。
不思議がる保護者に、コーチは 「みんなが同じ絵を描けるとこうなりますよ」 とまるで必然であるかのように笑って言います。
しかも、組み合わせが違うので、異なる個性が合わさり、彩り豊かなプレーで毎回応援する人を魅了してくれます。
多様な動きで相手を翻弄し、ゴール前までボールが届けられる様子は、鮮やかで見るものを唸らせます。
組織を育て、誰もを活かす。
コーチの目指す姿が指導を見ていると伝わってきます。
勝ちにこだわり、しかも、できるだけ多くの選手を起用するということ。
少年サッカーといえども、チームの勝利や結果が、指導者への評価とつながる厳しい世界。 選手の組み合わせ、タイミング、戦術……指導者の手腕が問われます。
勝利と出場機会、色んな思いが交錯するかもしれません。
けれども、「全員出場」には、単に選手に平等に出場機会を与える、ということにとどまらない価値があるようです。
本書の中に実に興味深い記述があります。
「戦力が同じ2つのチームがあって、毎月1試合をするとしよう。Aはレギュラーしか出さない。Bは全員を出す。1年後どちらのチームが勝つと思う?」
「正解はBなんだ。驚いた人も多いんじゃないかな。うまい選手を出す方が勝てるんじゃないかって思うよね。もちろん、最初の2、3ヶ月はAが勝つよ。でも、3ヶ月、4ヶ月、半年と経つ頃には、AとBの力関係は逆転していくんだ。どうしてだろう」
「全員を出すBは、うまくなかった子たちが試合に出ることによって成長していく。チーム内でも底上げが進めば、うまい選手達も刺激になる。練習の質が高くなるんだ」
「Aはうまい選手しか試合に出ないから、レギュラーとそれ以外の選手の差は開く一方で、チームの雰囲気も悪くなる」
全員を出すことで、チームが成長する。
「君たちの成長がこのチームを支えるんだ」 という、以前ご紹介した、なかなかレギュラーで試合に出られない子どもたちにコーチがかけた言葉を思い出します。
また、見過ごされがちな視点ですが、試合が終わり、選手同士ディスカッションするにも、あまり試合に出れていない子は蚊帳の外となっていることがないでしょうか。
一緒にプレーしていない彼らにとっては、そもそも「意見を言う」こと自体がハードルが高い。 いつの間にかチーム内での立ち位置が決まり、競技力による序列、グループが生まれることがあります。
これでは上手い子は成長に必要な謙虚さを失い、そうでない子は自信を無くし、組織の成長は鈍化していくでしょう。
一部の主力の選手だけではなく、チーム全員が役割を果たし、ピッチで輝けること。
それがチームの成長に繋がります。
幸野さんはこの本の中で、指導者の皆さんにこんな素敵なメッセージを贈っています。
「僕たち指導者には、選手に対する責任がある。長い目で見たときにサッカー界にとってどうなのかという、広い視点をもってほしいんだ。 全員を出しながら、強化を図って、チーム力を上げていくー。一見すると二律背反することを、その間でもがき苦しみながらやっていくのは、指導者としての経験値を高めるという意味でも大きい。」
個を生かしチームを強くするためのヒントを岡田メソッドや幸野健一さんの本は教えてくれます。そして何より鍵を握るのは、プレーモデルに加え、そこに関わる指導者の資質なんだと思います。
ライタープロフィール
サッカー少年の子どもを持つ母
子どもたちをもっと笑顔にするためには大人が変わらないといけない…
本には大人が変わるヒントがたくさん散りばめられています。
大人の心を育む本をご紹介していきます。