きっかけはある友人ママからの相談でした。
彼女の6年生の息子が所属するチームは、主力だけを試合で起用し大切にするチームでした。
クラブチームです。
試合に出るメンバーはいつも同じ。
6年生の数は少ないのに、その少年や一部の選手は遠征にも連れて行ってもらえません。
試合に出ることも、コーチに声をかけてもらえることも無いその少年は、すっかりやる気をなくし、公式戦中にベンチで寝てしまったこともあったそうです。
それでもコーチはまるで目に入っていないかのようにその選手に声をかけません。
中学では部活に行こうか、それともサッカーはもうやめようかな、と考えていました。
サッカーの楽しさを忘れ、笑顔をなくした子どもの姿に悩む友人に相談され、少し考えて、「練習したい選手を集めて〇〇コーチに指導を頼んでみたらどうかな?」と提案しました。
以前記事に登場したクラブチームのジュニアユースで指導するコーチです↓
事情を話すと、コーチは快く指導をひきうけてくれ、小学生の子どもたち10人くらいが集まり、月に1、2回練習会をひらくことになりました。
色んな選手が集まりました。
ある選手は「俺はボランティアでサッカーを教えてやっているんだ!」が口癖の監督が率いる少年団でプレーしています。
試合中、監督はいつも怒鳴り散らし、選手たちは笑顔どころか言葉を発することもできません。
でも、サッカーは好きだから...とチームを辞めずにいるその選手は、監督から他の選手と比較された否定的な言葉を浴び続けた結果、自信を失い、自分はダメな選手だ、と、思い込んでいました。
ある選手は、得意のドリブルをしたら怒られ、ボールを持たずにパスだけをするように指示されるクラブチームに所属していました。
プレーはどんどん消極的になり、自分でチャレンジするプレーをすることができなくなっていました。
そんな選手ばかりが集まった練習会。
子どもたちに笑顔と自信を取り戻してあげたい。
保護者の方の祈るような気持ちで始まった練習会です。
変化はすぐにおきました。
練習会後、毎回、たくさんの保護者から連絡がきます。
「子どもの生き生きとした表情に涙がでそうになりました」
「子どもが帰りの車の中で練習でしたことを興奮して話してくれます」
「家に帰ってすぐに、『習ったことを練習してくる!』と自主練に行ってしまいました」
「『ゲームでシュート決めたよ!!最初は隅っこを狙っても全然入らなかったけど、最後に決めたんだ!』と嬉しそうに話してくれました。」
「チームの練習で習ったことをチャレンジしているようです。まるで別人です。」
「所属するチームのコーチから、『最近すごくやる気が出ているので、練習回数を増やしませんか?』と声をかけられたんです」
「子どもたちが楽しんで熱中している姿に癒されました」
「今まで気持ちの持って行き場がなく、親も子も辛かったのが、救われました」
「子どもが『次、いつこの練習会あるの??』とずっと聞いてきます」…。
月にたった1回、2回。
それだけで、選手のサッカーの技術、知識が大きく変わったわけではないでしょう。
変わったことは、ただ子どもたちがサッカーが楽しい!と思い、夢中になったということでした。
まるで、コーチが魔法をかけたかのように、選手は主体的にサッカー取りくみ、驚くべき成長を見せてくれます。
「努力は夢中には勝てない」
為末大さんの言葉が脳裏に浮かびます。
この練習会では、少年団もクラブも、今の技術力も関係なく、「サッカーが好き」という気持ちだけで選手が集まっていて、子どもたちが比べるのは、他の選手と自分ではなく、昨日までの自分と今日の自分です。
依頼したコーチのコーチング。
ピッチには絶妙なタイミングでのコーチの声が響きます。
「〇〇、(選手の名前)、今しようとしたこと良かったよ!」
「最後まであきらめなかったのがよかったね」
「最後シュート打ったのがよかったよ!」
「キミならもっとできると思うんだけどなぁ!」
「いい位置にボールを置いたよ!」
「いい動きだしだだったね!」
一瞬一瞬を見逃しません。
ふと、コーチは「できたこと」を、ほとんどほめていないことに気がつきます。
コーチがほめるのは選手が「しようとしたこと」。
「しようとしたことがよかった」ということは、当然そのあと上手くいかなかったプレーもあります。
でも、そのミスは責めません。
今のはいい判断だよ、今のプレーでいいんだよ、と認められた選手は、ミスを恐れず「次こそは」とまたチャレンジします。
色んな教え方があり、関わり方があり、コーチの人間性や子どもとの信頼関係のなかで、厳しい指導、熱い指導がいい場合もあります。
もっと選手を奮起させる言葉だってあるかもしれません。
「Aだから正解」「Bは間違い」ではなく、色んなことはグラデーションなんだと思います。
ただ、ひとつ言えることは、どんなコーチングであっても、子どものやる気のスイッチをオンにすることができなければ、その子が輝くことはないんだろうな、ということ。
冒頭の、試合中にベンチに寝ていた少年は、半年後、小学校を卒業し、もっとサッカーをしたいとあるクラブチームに進むことを決めました。
罵声を浴びせる監督のもとでプレーする自信のなかった少年は、練習会で別人のように生き生きとサッカーを楽しんでいます。
プレーを選べないチームにいた選手は、自分の特徴を活かし自由にプレーできるチームに移籍をし、フォワードとして活躍しています。
「子どもたちがこんなにも変わるんだ」ということを目の当たりにした保護者の1人は練習会のことを「奇跡のレッスン」と呼びました。
「努力は夢中には勝てない」
子どもたちの心を自信で満たし、子どもたちが夢中になる関わりに大人がもっと意識を向けていけたら、子どもたちはもっと自由に、もっと伸び伸びと個性を生かし輝けるんだと思います。
ライタープロフィール
サッカー少年の子どもを持つ母
子どもたちをもっと笑顔にするためには大人が変わらないといけない…本には大人が変わるヒントがたくさん散りばめられています。大人の心を育む本をご紹介していきます。
こんな活動もしています:Plus_one_football(Instagram)