今日ご紹介するのは、喜多川泰さんの小説「One World」です。
人との出会い、出会いによる成長を描いた短編集ですが、それぞれのストーリーの登場人物がクロスオーバーし、不思議な世界へと引き込まれます。
一話目の「ユニホーム」
少年野球の指導者「有馬コーチ」と補欠の「佳純」の物語。
有馬コーチは「好きで始めたものを、もっと好きにしてあげるのが、子どもたちに関わる指導者の務め」だといいます。
ある日の負けた試合でのこと。 有馬コーチは、一人一人についての、印象に残ったいいプレーを上げていきます。ミスの戦犯探しはありません。
サヨナラエラーをした佳純のミスにも触れず、代わりに佳純にこう言います。
スイングも守備も、全力でトライしているのが素晴らしい。
ナイストライだ。
挑戦すると失敗することもある。
でも、それでも挑戦するのは勇気がいることだ。
特に最後の守備。抜けていたら負けていたものをよく止めたな。
プロ顔負け。思わず『おおっ』て声が出たもんな。
チームを救おうと果敢にノーステップでダブルプレーにも挑戦したろ。
あの気持ちを忘れるなよ。
いつかお前のプレーが、お前の一振りがチームを救う日が来るからな。
こんな指導者と巡り合ってほしい。
こんな言葉をコーチにかけられたら、子どもたちは幸せだろうな、と思わせてくれます。
あくまでも、有馬コーチはフィクションの登場人物。
でも、まるで、この小説のワンシーンようなことが先日、息子の所属するチームでもありました。
トレーニングも終わりの時間となり、ゲームのラストワンプレー。 仲間からパスを受けた息子がシュートをするシーンがありました。カーブをかけたシュートはゴールの枠外……そして、そこでゲーム終了。
息子はバツが悪そうにチームメイトに「ごめん」と謝りました。
コーチは練習終わりに、選手を集め「なんで謝るんだ?」「お前わざと外したのか?」と話し始めました。
「最後、シュートを打てる位置にはいって、シュートを打ったよな。それだけでも、素晴らしいことだよ」
「他の選手だってそうだよ。みんな本当に一生懸命やってるよ。サポートもする。チャレンジをする。他の選手はそのカバーに入る。すごいと思うよ」
「よく仲間どおしミスを謝るけど、謝ることなんてひとつもないだろう?」
思えば、試合でも、コーチはミスやシュートを外したことを咎めることも失望の表情を見せることもありせん。
「今のシュート、入ったも同然のシュートだよ。今のは1点だ」
「ミスはするんだよ。それがサッカーだよ。1人のせいじゃないだろ」
まるで、小説の中の有馬コーチのようです。
子どもたちがミスをおそれず、チャレンジできるのは、そのコーチの言葉に後押しされているのかもしれません。
また、この小説には、佳純のお母さんも登場します。Bチームで補欠の佳純。
お母さんは、毎回、出場機会がない試合へ向かう佳純に「頑張ってね」と声をかけることを躊躇し、「気をつけて行ってらっしゃい」といいます。
いつも汚れていない真っ白なユニホームを洗濯機に入れながら、「負けるな。がんばれ」と呟くお母さんの気持ちに涙がこぼれそうになります。
ある日佳純から、「かあさん、今日、見に来てよ」と言われます。
お母さんは「試合に出るの?」と尋ねます。
それまで1度も見に来て欲しいなんて言ったことはなかった佳純……。
すると佳純は……。
続きはぜひ本編でご覧下さい。
人生を変える本との出会いがあります。
私にとって喜多川泰さんの本は、そんな1冊でした。
きっと、みなさんの心にも、響くものがあるではないかと思います。
プロフィール
サッカー少年の子どもを持つ母
子どもたちをもっと笑顔にするためには大人が変わらないといけない…
本には大人が変わるヒントがたくさん散りばめられています。
大人の心を育む本をご紹介していきます。
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- 作者:喜多川 泰
- 出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2012年07月