選手一人一人の育成をしたい指導者向けの個別育成マネジメントツールAruga(アルガ)がリリースされました。
私はこのサービスの前身となるシェアトレの時から代表の木村さんとは何度かお会いしていました。彼の日本のスポーツ界を底上げしたいという熱い想いと共に、このサービスの構想の話も聞いていました。
ひとまわりも若い彼だけれど、その圧倒的な行動力と壁を乗り越える力は本当に日本のスポーツに携わる子どもたち、それを支える親や指導者の価値観をアップデートしてくれるのではないかと思います。Arugaはまさにそんなサービスです。
今回、改めてAruga株式会社代表の木村さんに、このサービスが生まれた背景、そして想いをインタビューしました。
プロフィール
木村友輔 Aruga株式会社代表/筑波大学4年
木村友輔/Aruga(アルガ)代表 (@kimu_sharetr) | Twitter
小学生でサッカーを始め、中学生時代はフットサルで東京都リーグで最優秀選手賞、得点王、ベスト5を受賞。サッカーでは神奈川県ベスト8。
高校はFCトリプレッタでプレー、稲盛和夫の「生き方」を読んでプロサッカー選手ではなくスポーツビジネスで起業することを決意。筑波大学でサッカーを続けながら起業。練習動画共有サービス「シェアトレ」を経て、Arugaをローンチ。
【目次】
- 子どもたちへの怒号、指導現場に衝撃を受け起業
- 電話でボロクソにダメ出しされ、新サービス探しに
- 筑波大 小井土監督の言葉で閃く
- 指導者の負担を軽減し、選手の主体性を育む、個別育成ツールAruga(アルガ)
- 次世代になくてはならない、個別育成プラットフォームを作るというミッション
子どもたちへの怒号、指導現場に衝撃を受け起業
ーーまず、起業のきっかけを教えてください
筑波大蹴球部(サッカー部)の活動の一環で、少年サッカーの指導を経験した時のことでした。
初めて帯同した練習試合で、「お前次ミスったらぶっ飛ばすからな!」と相手コーチが怒鳴っていたのです。そんな指導者の元で、子どもたちはプレーする度に大人の顔色を伺い、
怯えてながらプレーしていました。そのような光景を見て、衝撃を受けました。
しかし、多くの指導者とお話をさせていただく中で「選手を駒のように扱う指導者は一握りで、ほとんどの方は熱心に休日を返上してまで指導をされている、子ども想いの方だ」と知りました。
そこから「熱心な指導者の役に立てることがしたい」と思うようになり、様々な指導者に「今どんなことに困っていますか?」とインタビューするようになりました。
すると、「適切な練習メニューがわからない」という悩みが多く集まりました。
実際に僕も子どもたちのトレーニングを担当した際、練習メニューが難しすぎたり、思ったような練習にならなかったりと、似た悩みを持っていました。
「他のベテランコーチが知っているような、長年の工夫が詰まった練習メニューを知れたらなぁ」
そんなモヤモヤを抱えていた時に、料理を作るためのレシピメニュー共有サイト「クックパッド」が目に入りました。
その瞬間「クックパッドのように、指導者が練習メニューを投稿して共有できるサービスがあれば、便利なのではないか!」と閃きました。
ーークックパッドがきっかけだったんですね。サービスは木村さんが作ったのですか?
いえ、僕はサッカーしかしてこなかったのでプログラミングができませんでした。
なので、協力してくれるエンジニアを探し回りました。「こんなサービスがあれば指導者の役に立てると思うんです!」と、熱く語っていたところ、筑波大の学生エンジニアが手伝ってくれることになりました。こうして、サービスが形になり、トレーニングをシェアするサイトなので「シェアトレ」と名付けました。
その後2016年に「本気でシェアトレを伸ばしたい」と思い起業と休学を決断しました。
その甲斐あって、シェアトレは立ち上げてから2年で月6万人の指導者に利用していただけるまでに成長しました。
ーーそれはすごい。どうして順調に成長していたシェアトレをやめて、次のサービスを立ち上げたのですか?
電話でボロクソにダメ出しされ、新サービス探しに
1つはビジネスの壁にぶつかっていたことがあります。
広告収入で運営していましたが、そもそも指導者の母数が少ないため、収入を増やすにはサッカー以外のスポーツにも展開する必要がありました。
「他のスポーツの練習にそこまで興味ないからなぁ」と悩んでいました。
そんな時、追い打ちをかける電話が入りました。
ーー追い打ちをかける電話?
はい。海外にいる日本人指導者の方から、いきなり電話がかかってきてこう言われました。
「君がシェアトレを運営している木村君ですか?あのサイトはすぐ閉じなさい。
君のような指導歴が浅い指導者が、良い練習と悪い練習の区別ができると思うのか?練習メニューだけではダメなんだ。
確かに練習メニューを見れることで助かる指導者もいると思うが、それは本質ではない。はっきり言うが、君以上の指導者はあのサイトからは育たない」
と、1時間以上ダメ出しをされました。
ーーそれはきついですね。
はい、とても凹みました。
ただ、言われたことは正論でした。正直僕も「練習メニューを提供するだけでは本質的に指導者のためにならない」と感じていました。
この電話がきっかけとなり、シェアトレは一度ストップし、「もっと指導者の役に立てるサービスを考えよう」と、新サービスを探し始めました。
筑波大 小井土監督の言葉で閃く
ーーそこからどのようにして現在のサービスを思いついたのですか?
新しいサービスを考える中で1つ、僕が目をつけたのがコーチングという分野でした。
コーチングの重要性は筑波大学の小井土監督からも教わっていました。
小井土監督は、チームが戦後初の関東リーグ2部に降格した年に赴任され、その年から改革として選手主体のチーム作りを進めていました。
その活動の1つに、160名の選手全員に目標達成シートを書かせ、手書きで監督がフィードバックするという取り組みがありました。
ーーすごいですね
僕も最初「こんな5軍の選手のことまで観てくれているんだ」と感動しました。
「大学サッカーは全員がプロになるわけではないので、部活を通じて社会に出てからも活躍できる力を身につけてほしい。そこで大事になってくるのがコーチング。選手自ら目標を立て、行動し、改善できるようにサポートしたい」
そんな想いで、小井土監督は授業や部活で忙しい中、フィードバックしてくれていました。
「選手としては嬉しいけど、監督の負担は大きいだろうな」と、思っていた時、小井土監督からこんなことを言われました。
「一人一人にコーチングするのって大事なんだけど大変なんだよなぁ。木村、アプリとか作れるならこれIT化してくれよ(笑)」
この一言が新サービスAruga(アルガ)を思いつくきっかけになりました。
ーー新サービスも指導者の声から生まれたサービスなのですね。具体的にどんなサービスなのですか?
指導者の負担を軽減し、選手の主体性を育む、個別育成ツールAruga(アルガ)
簡単に言うと「電子版のサッカーノート」です。
しかし従来のサッカーノートとは違う、便利な点が2つあります。
1つ目は、チャットボットというAIのような機械が、選手の目標設定、振り返り、コンディショニング管理をすべて自動で行ってくれるところです。
2つ目は、集まった選手のデータを、指導者はアプリとパソコンからいつでも確認でき、簡単に個別フィードバックができることです。
紙やノートで行おうとすると、配って、記入してもらって、回収して、フィードバックする、という作業が必要でしたが、Arugaではこの作業を自動化してくれるので、指導者の負担は格段に減ります。
具体的に1日の利用シーンを説明すると、
練習開始前に選手全員のLINEに「今日の練習でどんなことを意識しますか?」と質問が届きます。
選手はその質問に回答し、練習の目的を明確にします。
そして練習が終わると、
次は「今日の練習でどんなことがうまくいきましたか?」
「次はどう改善する?」
「疲労度はどのくらいですか?」
と、振り返りの質問が届きます。
選手の解答時間はわずか3分。他のサービスをダウンロードする必要がなく、全てLINEで気軽に記入できる点が好評です。
こうして選手がLINEで記入した内容が、コーチの専用アプリとパソコンには集まってきます。
コーチはいつでもどこでも好きな時にフィードバックできます。
最近はコロナの影響もあり、選手の体温や倦怠感の有無などもLINEで計測してまとめることも可能にしました。もちろん怪我の有無や疲労度などの計測も可能です。
ーー既に導入しているチームはあるんですか?
今年の10月7日に正式にスタートし、現在は無料トライアルも合わせて40チームほどが利用してくださっています。
サッカーだとJ2の水戸ホーリーホックTOPチームや栃木SCユースで導入予定です。他にもJリーグのチームから5チーム「試しに使用してみたい」と問い合わせをいただいています。(2020年10月時点)
ーーリリース1ヶ月でJチームからも問い合わせがあるのはすごいですね
ありがたいことに、Jチームの育成部や強化部でも「選手の個別育成をサポートしたいけど紙では大変」という悩みがあったそうです。
最近知った話なのですが、バルセロナなどのヨーロッパクラブではITを使って選手の個別育成や目標管理が当たり前になっているそうです。
日本の育成システムの底上げにも貢献したいですね。
ーーサービスの対象年代はどこなのですか?
最初は大学生向けに作っていたArugaですが、サービスをスタートしてみると下は小学生から上は社会人まで、幅広く使っていただいています。
最初は僕らも「小学生はスマホを持ってないし対象ではないかな」と思っていたのですが、親御さんのスマホで回答してもらうことで連絡帳代わりにも使っていただけることがわかりました。
「コーチに見てもらえているから、うちの子が自分で目標を立てて自主練し始めた」という感謝の声をいただいたり、
「『自分の子供のことをちゃんと見てもらえているのかしら』と不安だったけど、個別アドバイスが見れるようになって安心した」といった声もいただいています。
一番いただいて嬉しかった声は、指導者の方からなのですが、
「Arugaを導入して現場でのコミュニケーションが増えた」というものです。
ITサービスはアナログのコミュニケーションを否定するものと捉えられがちですが、僕たちが目指しているのは「指導者の方が本当に大事なことに時間を使ってもらえること」です。
実際に僕が指導現場を経験し、指導者の方には負担なペーパーワークの作業が、まだまだ多いと感じました。そんな中でも多くの方が「一人一人の成長に寄り添いたい」という思いで指導をされていると思います。その「寄り添い」をITの力で補助的に最大化できたら、こんなに嬉しいことはありません。
次世代になくてはならない、個別育成プラットフォームを作るというミッション
ーー最後にArugaが普及したら日本の社会はどうなると思いますか?
よくテレビなどで「AIに仕事を奪われる」という見出しをよく見ますが、半分正解で半分は間違いだと思います。
AIに向いていることと、人にしかできないことがあるからです。
例えば、大勢の選手からデータを正確に集めて、見やすく表示することは、確実にAIが行った方が効率的ですしミスが少ないです。
しかし、そのデータを知り、一人一人に「最近頑張りすぎてないか?」と声をかけて「お前のことちゃんと見てるぞ」と、感情的な体験を与えられるのは人だけです。
今後、科学技術がどれだけ進歩しても、人にしかできない仕事は感情的なつながりを作って人をモチベートすることだと思います。
僕らは指導者が「一人一人の成長に寄り添いたい」と思った時に、感情的な繋がりを最大化できる個別育成プラットフォームを作りたいと思っています。
このサービスを日本中に広めることで、
選手には「自分の成長を常に、誰かに見守ってもらえている」という体験を届けたいですね。
1週間で2万PVを超え話題になった、木村さんのせきららなnoteもぜひ⬇️
20歳で起業した僕が、うつ病とチーム崩壊を経験した話。|木村 友輔 | Aruga CEO|note
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現在は30日間の無料トライアルも実施中。
10月7日に発表した公式リリース記事はこちら⬇︎
導入チームが初のインカレ優勝。個別育成ツール「Aruga(アルガ)」正式版の提供開始。Jリーグチームなど続々導入中。
▼サービスサイトはこちらから
▼無料トライアルはこちらから
■こんな方にオススメ
・チームに振り返り(PDCA)の習慣を根付かせたい
・紙やエクセルでの目標管理が大変
・コロナ対策や疲労度などのコンディションチェックを手軽にしたい
・選手の「自ら考える力」を伸ばしたい