積み重ねてきた努力を、大舞台で表現するということ。
付加価値という言葉がある。調べると元々はビジネス用語で、企業の総生産から原材料を引いて表した、生産過程で新たに生み出される価値のことを言うらしい。
サッカーにも付加価値がつくことがある。例えば年間20ゴールのFWと、10点しか取っていないけど、ビッグマッチや勝負どころで必ず点を取ってきたようなストライカーを比べると、実は後者の方が評価されているようなことがこの世界では多々ある。
そのプラスアルファこそが、世界最大のスポーツであるサッカーの醍醐味であったりするが、とはいえ付加価値はあくまで付加価値。定義付けできるものではなく、ただでさえ数値化・言語化の困難なサッカーにおいて付加価値まで加えるとなれば、例えば「一番上手い選手って誰?」というようなテーマはますますカオスな議論に突入していくだろう。
そのややこしいところを逆手に取って、「付加価値込みで世界で一番サッカー上手い選手」を決めるのであれば、僕にとってのその選手は間違いなく中村俊輔になる。間違いなく。
深夜の中村俊輔が世界で一番凄い
中村俊輔という選手は、そもそも世界的に有名な大選手。東南アジアでもヨーロッパでも、自分が日本人だとわかった途端に「ナカムーラー!」と声をかけてきた人は何十人もいた。それぐらい地球の隅々まで知られた素晴らしい選手で、言わずと知れたフリーキッカー。幾多もの美しい放物線を相手ゴールに描いてきた。
記憶に残る美しいフリーキック
ヨーロッパで有名なのはこの2発だろう。チャンピオンズリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦。当時世界最高のゴールキーパーファンデルサール相手にホームでもアウェイでもゴールへ叩き込んだことで、ナカムーラの名はヨーロッパ中に轟いたし、
加えてセルティックの一発ならこれも忘れられない。優勝を決めたキルマーノック戦での低い弾道は今でも語り継がれているという。
世界にインパクトを残したエレガントなゴール
日本人なら誰もが興奮した一発はこれ。2年前に敵地で0−5で破れたフランス相手に、同じく敵地で臨んだコンフェデレーションズカップ。結果は1−2で敗れるが、狭いサイドを撃ち抜いたゴールはあまりにもエレガントだった。試合後アンリは「ナカタとナカムーラはフランスでも知られている選手だったが、評価を改めないといけない」と語ったことからもわかるように、日本サッカーの成長と躍進を肌で感じるゴールだった。
当時の世界王者へぶち込んだロングシュートと、同点ゴールを生み出したFKもあった。ブラジルは翌年のドイツワールドカップでも同じ組になるが、大会直前で現地メディアは「一番警戒するのは日本」と記すことになる。
これらの試合の共通点がある。深夜から明け方にかけての遅い時間だということだ。上述してないセリエAやスコットランドの試合もそうだし、日出ずる国の試合では、目をこすりながら観るゲームは必然的に大一番となることが多い。
当時小学生とか中学生な自分にとって、起きているのはキツイ時間帯の試合も多かったが、まさに「目の覚めるような」ゴールの数々。
彼の一発に何度も心を踊らされた。
そしてじわじわ感じる、努力を表現するナカムーラの凄まじさ
夜中に目が覚め、そこからじっくりと思い知らされるのは、彼の表現力だ。
「背が低かった」
「ユースに上がれなかった」
「居残り練習は欠かさない」
「スパイクを自分で磨く」
天才でありながら、努力してきたというエピソードには事欠かない。小さい頃からコツコツと積み上げて来たものを、プロのピッチで余すことなく表現し、表現したあとはまた黙々とトレーニングを続ける。
そのサイクルを続けるから大事な試合でさらに輝きは増し、輝いたあとには再び積み重ねてきたことをフォーカスされる。彼が表現するのはただのひらめきでなく、何万回もトレーニングしてきた成果なのだ。
ただのゴール。それに大舞台だというという付加価値が加わり、深夜だという付加価値が加わり、努力してきたんだという付加価値が加わり、さらに僕にとっては同じ横浜出身。同郷のスーパースターが世界で羽ばたいてるというとっておきの付加価値も加わっていき、いつしか僕にとっての世界最強選手へとなっていく。
サッカーは人生が乗っかるスポーツだ。ただドリブルが上手い、足が速い、勝った負けたで楽しんでいてはもったいない。
メッシもそう、ロナウドもそう。どんなパーソナリティーを持っていて、それをどんな風に表現してるのか、そこまで掘り下げられた時、「サッカーの本質」にまた一歩近づくのかも。
ライタープロフィール
丸山龍也
サッカーすごい好きだけど、サッカーすごい下手な、元海外リーガー。
サッカーの本質を追求する旅はつづく…
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